タイ国・プミポン国王崩御

タイ国・プミポン国王崩御

3C丸岡です。

もともと、10月17日からタイで開催される関係業界の集まりに参加するため、16日にバンコク入りすることになっていたのですが、その3日前の10月13日、タイのプミポン国王が崩御されました。悲しみにくれるタイ国民の様子をニュースは報じていました。タイ政府は国民に対し喪に服するよう発令しました。

 特に変更もなかったため、予定通り16日の早朝にバンコク入りしました。スワナブン空港の、いつもは多くの旅行者が列をなしている入国審査場には人がまばらで、ほとんど待つこともなく入国審査完了。

 さて、ホテルに着くと、ロビーの一角には国王の遺影が飾られていて、その前でタイ人の宿泊客が弔意を記帳しています。部屋に入ると、宿泊客宛のメッセージが置かれていたので、なんのこっちゃ、と見てみると「10月14日から30日間は国を挙げての服喪期間となるため、祝宴や慶事の催し物はすべて延期となります」と書いている。う~ん、まあそらそうかな~と思いながら、パソコンをネットに接続し、次の出張のスケジュールを調べようとタイ航空のウエブサイトを開くと、いつもはカラフルな表示が、国王の遺影を掲示するとともにモノクロに変更されていて、あら~なるほどな~、ここまでやるのか、と。 

その日の夕刻、タクシーで繁華街のスクンヴィット通りを走ると、いつも通り営業している店もありますが、個人商店の多くはシャッターを下ろし休業しています。タクシーを降りると、たまにコーヒーを飲みに行くコーヒーショップは営業中。周辺のスーパーや飲食店もすべて営業していますが、国王崩御のためアルコール類の販売や提供はしていない、とのこと。タイでは、宗教上の理由や王室関係の理由で、アルコール類の提供をしない日がありますし、また選挙の前日もアルコール類の販売は許されていません。やはりアルコールが飲めないとなるとお客は来ないのか、平日・休日を問わずいつも客で混雑しているパブレストランには、お客の姿がまったく見られず、開店休業状態。 

  17日から始まる業界関係の集まりの主催者から、「服装は、基本的に黒か白にするよう」との通知があったので、黒シャツを買うためBTS(都市高架鉄道)のアソク駅に隣接するデパートへ行くと、駅を出てデパートに続く歩廊には服喪の黒白の飾り付けが施されいて、デパートの入口にはやはり国王の遺影が飾られていました。デパートの中に入ると、主立った店のショーウインドウの中はほぼ「黒」一色でまとめられてます。店員も黒服を着用し、行き交うお客にも黒服が目立ちます。  

このような状態を見ていると、一国の国王が崩御し、そのための国を挙げての哀悼・服喪とはこういうことなのだろうなと思ったりもするのですが、それはある種「表の顔」なのかもしれません。

ひとつの単純な例として、国民が外出の際に黒服を着用するのは、哀悼の意味も当然あるのですが(実際のところプミポン国王を敬愛する国民が大多数なんですが)、それは政府がそうするようにと発令したからであって、店のショーウインドウが黒色の商品で飾り付けられるのは、その発令により、「黒色」の服や雑貨が売れるからなんだ、と。おやまぁ、そ~ですか、と思ってしまうのですが、多くのタイ人がそう言うのだから、そうなんでしょうね。

 崩御したプミポン国王については、タイ国民の誰もが裏表なく「立派な良い国王」と認め敬愛し信じていることは確かでしょう。プミポン国王はその在位中に、タイ国内をくまなく巡幸し、貧しい農民と語り合い、国民の生活向上のためのプロジェクトを何百も立ち上げ、開発途上にあったタイの文化・経済を後押しする活動も果たしました。プミポン国王が偉かったのは、あるいは至極まっとうだったのは、潤沢な王室の富を、無私の心で国民に再分配するという仕組みを立ち上げ作動させたことにありました。そして彼の在位中、多くの国民がその恩恵に浴したのは事実です。タイ国民にしてみればプミポン国王は「ええひとや。ほんまええ王さんや」なのです。彼が在位70年の間にこのように築きあげてきた王室と国民との良質な関係が今後どうなるのか、タイ国民はやや不安な眼差しで注目しているようです。さて、彼らが不安を持って注目しなければならない事情はいくつかあるのですが、いやはや、なんでもテキト~に書き散らしてしまう私でも、さすがに書けないことあるのです。なのでここには書きません。これにつきましてはご容赦いただきたく・・・。プミポン国王は、崩御までの最後の何年かは入退院を繰り返しながらその地位にとどまり続けたわけですが、そうした健康状態においてはタイ国民が期待していた役割を十分に果たせず、タイ国民は国王の入退院のたびに一喜一憂していました。

わずか一週間で終わった昭和64年に昭和天皇が崩御されたときとどこか似ているようです。このたび日本では、今上天皇が国民へのメッセージとして、天皇が天皇として天皇のなすべきことを全うするためにも、皇太子に譲位することをもって良しとする旨を明確に述べられました。つまり「天皇という機能」を果たす者(天皇陛下)は健康でなければ「天皇を行う」ことができない、と仰ったわけです。「天皇というもの」を途切れることなく十全に機能させ続けるためにも譲位する、と言っておられるのです。ごくごく自然で当たり前のことかと思われます。

ただ、不思議に思うのは、新聞や報道が「生前退位」という珍奇な四字熟語をこぞって言いつのっていることです。言葉に厳正な立場にあるはずの者が「赤い顔して赤面し」「馬から落ちて落馬して」「腹を切って切腹した」と言い続けているのです。今上天皇のメッセージを受けて、本来なら、これからの日本の国の在り方をともに考えるよう報じるべき局面において、敢えて混乱を招くような意味不明な言葉遣いをしているのです。美智子妃が不快感を表明されるのも当然のことかと思います。

この国では、天皇や憲法、そして戦争について語られるとき、なぜいつもこのような変調不協音が聞こえてくるのでしょうか。

タクシーのラジオからいつ終わるともなく流れてくる追悼の読経を聞きながら、敬愛する国王を失ったタイ国民の不安を、服喪の黒に染まるバンコクの風景の中に垣間見るとき、ふとそんな風に思ってしまうのです。

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